Special Report レポート

堤剛&萩原麻未 デュオ・リサイタル

Reported by Haruka Kosaka

 弦楽器奏者にとって共演が楽しいピアニストは、新しい自分や表現を発見できる相手だと聞くことは多い。
日本を代表するチェリスト、堤剛さんにとっては、萩原麻未さんがまさにそんな存在なのだという。堤さんは彼女の演奏の“色彩感”や“間のセンス”に魅せられたそうで、最近共演を重ねている。
 7月8日、そんな二人のデュオによるコンサートが、東京・ハクジュホールで行われた。美しい響きを持つ、広すぎない親密な空間で名手の演奏を聴くことができる、とても贅沢な時間だった。

 ステージに現れた萩原さんは、夏らしく爽やかな真っ白のドレスに身を包んでいた。1曲目は、ベートーヴェン「モーツァルトの《魔笛》の“娘か女か”の主題による12の変奏曲」。堤さんのチェロの呼吸に合わせ、やわらかく表情豊かなピアノが流れる。変奏ごとに異なる顔を見せながら、生き生きとした音楽が展開した。
 続いて演奏されたのは、フランクのチェロ・ソナタ。ピアノから、ホールいっぱいに淡い色が広がるさまが目に浮かぶような音が放たれる。その音にのせて、チェロが空想の世界をさまようように、美しいメロディを歌いあげていった。第2楽章で堤さんが、ドラマティックな萩原さんのピアノにのるような表情で、情熱的にチェロを奏する様子も印象的だった。
 そして後半の冒頭は、三善晃さんが国立成育医療センターの病院内でかける音楽として作曲した「母と子のための音楽」。堤さんは、この作品を三善さんの奥様から直接紹介され、演奏するようになったという。ここまでのベートーヴェン、フランクとはまた違った質感の、透き通ったピアノの音が広がる中、清らかであたたかいチェロが歌う。どこかなつかしい気持ちを呼び起こすアンサンブルが繰り広げられた。
 プログラムの最後に置かれたR.シュトラウスのチェロ・ソナタでは、抑揚をぴたりとリンクさせたチェロとピアノが、まるで二重唱のような音楽を生む。第2楽章では静かに歌うチェロに萩原さんのピアノが深い彩りを添え、また終楽章では、聴衆を輝かしく優美な世界に誘い、華やかに音楽を閉じた。
 二人は客席からのアンコールに応え、まずラヴェルの「ハバネラ形式の小品」、そして堤さんが「これは萩原さんの好きな曲」と紹介して、カサドの「親愛なる言葉」を演奏。思い切った表現によるピアノと力強いチェロが、パッションあふれる音楽を届けた。
 そして最後はラフマニノフの「ヴォカリーズ」。ごく自然に柔らかく流れるピアノの上で、堤さんのチェロは、気持ちを120%込めたような哀しく美しい歌を奏でる。心に沁みるメロディと共に、演奏会は幕を下ろした。

 堤さんと萩原さんは、たびたびアイコンタクトを交わしながらしっかりと息を合わせ、ピアノがときに後ろに下がり、ときにぐっと前に出て、立体的なアンサンブルを聴かせてくれた。終始とても楽しそうに演奏している二人の姿が印象に残る。
堤さんは、これからも二人で演奏するレパートリーを増やしていきたいと話している。今後、世代をこえたこの息ぴったりのデュオにより、どんな作品を聴くことができるのか、とても楽しみだ。

高坂はる香