Special Report レポート

萩原麻未&ヴォーチェ弦楽四重奏団

words by Mami Hagiwara

 萩原麻未さんとヴォーチェ弦楽四重奏団(以下ヴォーチェSQ)による全国ツアーが行われた。ヴォーチェSQは2004年、パリ国立高等音楽院の卒業生によって結成された気鋭のアンサンブルである。数々の国際音楽コンクールで優勝や上位入賞を果たし、フランス内外の音楽祭やコンサートで積極的に演奏する他、ヨーロッパ・コンサート・ホール協会から2013-14年シーズンのライジング・スターにも選出された。
 萩原さんが2010年、ジュネーヴ国際コンクールにおいて日本人初の優勝を飾ったのは記憶に新しいが、ヴォーチェSQもまた2006年に1位なしの第2位に入賞を果たしている。
 「ヴォーチェSQと初めて共演したのは、2011年5月くらいだったと思います。ジュネーヴ国際コンクールの入賞者コンサートで、コンクール事務局の方でセレクトして引き合わせてくださいました。最初に演奏したのは、フランクのピアノ五重奏。その時に、ことさら言葉で会話をしていないのにも関わらず、心で繋がっているような感覚で演奏できて、その瞬間がすごく幸せで、嬉しかった覚えがあります。その後もヨーロッパを中心に10回近く共演することができ、これからもたくさん共演する機会があればといいなとずっと思っていました」

 今回のツアーは、11月29日の広島、はつかいち文化ホールさくらぴあを皮切に、30日茨城、つくばノバホール、12月3日大阪、ザ・フェニックスホール、5日東京、紀尾井ホール、6日愛知、瀬戸市文化センター文化ホール、7日大分、iichiko総合文化センター 音の泉ホールと全国6箇所。その中のつくばノバホールにお伺いした。
 プログラムは、まず萩原さんのピアノ独奏で、モーツァルト「デュポールのメヌエットの主題による9つの変奏曲K.573」と「幻想曲 二短調 K.397」、ヴォーチェSQによるベートーヴェン「弦楽四重奏曲第4番」、そして両者の共演によるドヴォルザーク「ピアノ五重奏曲第2番」というなかなかに重厚な構成。
 「ドヴォルザークのピアノ五重奏曲は、私も弾くのが初めてで、今日のノバホールでのコンサートがヴォーチェSQとも初めての共演です。モーツァルトの2曲は、彼らがベートーヴェンのクァルテットを演奏するので、ベートーヴェンに合うものをと考え、選びました。自分が弾きたいモーツァルトの作品です」
 この日萩原さんのピアノ独奏は、彼女らしい伝統的な様式観に立脚した誠実なアプローチで、作曲家のメッセージをしっかりと浮き彫りにする。その上でモーツァルトの原語に沿った自然な音楽的流れと軽やかさに加え、作品の内面に潜むモーツァルト独自のニュアンスやエモーションを巧みに表出して比類がない。さらにドヴォルザークでは深々とした譜読みと正統的な解釈、そしてスラヴの抒情を見事に描きながら、場面によって時に牽引し、時に融合し、時にスリリングな掛け合いをして鮮やかかつ緻密なアンサンブルを構築した。
 終演後にお話を伺うと、ツアー初日の前日、広島公演が終わり、広島空港に移動して宿泊、翌朝一番の飛行機で羽田空港に到着、そしてノバホールでの15時からの公演に臨んだという結構ハードなスケジュール。それでも表面にはそんな気配さえ感じさせず、常ににこやかな笑顔を浮かべ、なお充実した濃密な演奏を聴かせるタフネスぶりも彼女の魅力である。そんな彼女に、室内楽についての取り組みを聞いてみた。
「パリに留学してから、チェロやヴァイオリンの友人たちと室内楽のクラスは取っていましたが、たくさんするようになったのはコンクールが終わってからですね。学校にいる時、私はイタマール・ゴラン先生のクラスにいたんですが、最初ゴラン先生を見たのはテレビだったんです。庄司紗矢香さんとのベートーヴェン《クロイツェル》。とにかくびっくりしてずっと釘付けになっていました。ですのである日、パリ音楽院でゴラン先生がレッスンしているよって友人に聞かされてびっくり。実際レッスン室に入るまで、ホントに信じられませんでした(笑)。でも入ったら、テレビのままの先生がいらっしゃって…(笑)」
室内楽としては、これまでヴァイオリニストとのデュオが多かったという。竹澤恭子、小林美恵など、世界を代表するヴァイオリニストたちとの共演は、彼女も大いに啓発を受けたに違いない。同世代だと成田達輝、チェロの中木健二などとも多く共演、けれどもクァルテットとの共演は彼女自身、ヴォーチェSQが初めただったという。
「ヴォーチェSQは全員フランス人ですが、もちろん4人別々の人間。なのに一体となって、すごい歌心もあって、その場で音楽を創っていく感覚があって、今日は本当に楽しかったです。世代はちょっと上だったので音楽院で重なってはいなかったし、もちろん国によるメンタリティーもあるんでしょうけれど、やはり個人個人の相性が大切だと思いますので、そういう意味で私はヴォーチェSQとの相性がすごくいいと思っています。音楽をしている時はもちろん、普段の彼らも大好きです」
今後も萩原麻未さんとヴォーチェSQの動向に、大注目だ。

2015年5月22日
萩原 麻未