Special Report レポート

萩原麻未さん、せんくらレポート

Reported by Hiromi Masaki

秋も深まる9月の末から10月初めにかけて、毎年行われる「仙台クラシックフェスティバル」。この音楽祭は「せんくら」の名で親しまれ、開催中は、仙台市内のホールや街かどで、多くのコンサートが催される。
コンサートはソロから一期一会の室内楽、また地元仙台フィルハーモニー管弦楽団との協奏曲など形態もさまざま。聴き手はトークを交えたアットホームなものから通常のホール・コンサートまで、安価な公演をはしごして楽しむことができる。その数、今年は87公演。国内外で活躍する旬の演奏家が集い、この音楽の祭典を盛り上げた。
 待望の萩原さんの「せんくら」初登場は、シューマンのピアノ協奏曲で幕を開けた。強音の冒頭部分、萩原さんの全身から放たれる骨太な音色が、色鮮やかに響く。そしてオーボエから主旋律を引き継ぐと、萩原さんは抒情的な和音進行をしっかりと捉え、旋律の比類ない美しさをさらに浮き立たせる。続く下降音型では、それを溢れ出るようなデュナーミクに乗せ、オーケストラも呼応し、引いては寄せる波のように、いつにも増して歌心を見せた。
ピアノに向かう萩原さんは、まるで自身の内面をすべて吐露するかのようだ。音楽への思いのたけをすべて音に乗せ、波打つようなフレーズの伸縮を自在に表現してしまう。しかもそれは、オーケストラをもぐいぐいと巻き込み、双方が寄り添い、影響し合い、室内楽のような効果を生み出す。まして、指揮者やソリストに寄り添い、自在に演奏が変化する仙台フィルだけに、その影響は絶大だった。
 演奏は、何も美しいばかりではない。ペダルを長めに用いた第1楽章のソロでは、カリヨンのような壮麗な音色を聴き、また激するパッセージで放つ猛々しいほどの音色に、意外性も愉しんだ。反面、第3楽章では、萩原さんはペダルの長短を使い分け、ピアノ音楽の白眉シューマンが、作品に散りばめたピアノのさまざまな魅力や可能性を、丁寧に浮き彫りにする。これほど多くの要素が次々と展開される中でも、混沌とした印象がないのは、やはり弾き手の萩原さんが作品を深く読み込んでいるからに他ならない。そしてそれを恐れず音へと繋げられる比類ない表現力、それこそが、萩原さんの魅力ではないだろうか。
 じつは、今回の演奏を聴くことに多少の不安があった。それはホールに起因するのだが、今回演奏したホールは響きの伝わり方が特殊で、協奏曲などはソリストとオーケストラの音色が乖離してしまうことが、過去に一度ならずあったのだ。その中で、室内楽的要素がたっぷり詰まったこのシューマンの協奏曲を、オーケストラとの齟齬なく、それどころか、アンサンブルの交歓楽しく聴かせてくれた萩原さん。それは、萩原さんが持つ天性のセンスに加え、幾多と重ねてきた室内楽の経験に、裏打ちされたものに違いない。3月には同じホールで、今や引っ張りだこの指揮者・山田和樹と仙台フィルとの共演も実現するという。これはもう、聴き逃すわけにはいかないだろう。

正木裕美