Special Report レポート

日本から世界へ、そして未来を見据えて
~自分らしく音楽と向き合う1年に~

interview & words Haruka Kosaka

日本から世界へ、豊かにつながってゆく演奏活動

2013年度は、初めてのベネズエラ訪問とエル・システマ・ユース・オーケストラ・オブ・カラカスとの共演、さまざまな室内楽や日本のオーケストラとのコンチェルト公演など、多彩な活動を行ってきた萩原さん。次シーズンも、充実した演奏活動が予定されている。

例えば、ゴールデンウィークに行われるフランス生まれの音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ」への出演。東京の公演では、ジュネーヴ国際音楽コンクールでも演奏した思い出の作品、ラヴェルのピアノ協奏曲を、ジャン=ジャック・カントロフ指揮のシンフォニア・ヴァルソヴィアと共演する。カントロフ氏といえば、ヴァイオリニストとして萩原さんの恩師ジャック・ルヴィエ氏と多くの録音を残している人物だ。

「特に、ルヴィエ先生のピアノ、カントロフ氏のヴァイオリンとフィリップ・ミュレール氏のチェロによるラヴェルのピアノ三重奏は名盤として知られています。私も大好きで何度も聴き返した録音ですから、今回共演できることはとても楽しみです」

その他、同音楽祭のびわ湖、金沢での公演には、昨年からデュオを組んで演奏活動を行っているヴァイオリニストの成田達輝氏とともに登場する。成田氏はカントロフ氏の弟子でもある。音楽がつなぐ豊かな縁を感じずにはいられない。

優れた現代作品を紹介する喜びに目覚めて

6月には、このところ室内楽や協奏曲での活躍が多かった彼女にとって久しぶりのリサイタルツアーが予定されている。プログラムは、フォーレのノクターン、ドビュッシーのベルガマスク組曲と「喜びの島」、ラヴェルの「ラ・ヴァルス」などといったフランスものがメイン。「静から動へ。穏やかな作品から華やかなワルツに向かってゆく」という流れを意図しているという。

そして注目すべきは、最後に置かれているポーランド系アメリカ人作曲家、フレデリック・アンソニー・ジェフスキの現代作品だ。

「現代作品は必ず何か入れたいと思っていました。すばらしいけれどあまり知られていない作品を演奏して、こんなに良い曲だったのかと感じてもらえたら嬉しいと思って。フランスものも考えましたが、今回は、プログラムを見たときに、これは一体どんな曲だろうと興味を持っていただけると思う、ジェフスキの『ウィンズボロ・コットン・ミル・ブルース』を選びました。初めて聴いたときに強いインパクトを受けて、いつか弾いてみたいと思っていた作品です」

現代作品を紹介する喜びを意識するようになったのは、ここ数年のことだという。

「ヨーロッパのお客さんって、新しいものに興味を示される方が多い気がします。そんな反応に影響されたところが大きいかもしれません」

これからも現代曲は機会があるごとに取り上げてゆきたいと語る。その演奏家としての“使命感”のようなものを、気負わず、自然に持っているところが萩原さんらしい。

フォーレ後期作品へは、時間をかけて近づいてゆく

そして秋冬には、彼女が長らく望んできたというヴォーチェ弦楽四重奏団とのツアーが行われる。ジュネーヴ国際音楽コンクールの優勝者同士として、ヨーロッパツアーで共演したのが知り合うきっかけだった。

「演奏していると共感できる部分が本当に多くて、私自身とても自然でいられるのです。彼らの人柄、音楽性、とにかく大好きです」

今回取り上げるフランクのピアノ五重奏はすでに共演経験もあり、同じパリ国立音楽院で学んだ萩原さんと彼らにとって近くに感じられる作品でもある。初共演となるドヴォルザークのピアノ五重奏も楽しみだ。

一方、いつか彼らと演奏してみたい作品として、萩原さんはフォーレ晩年の作であるピアノ五重奏第2番を挙げた。フォーレの作品は、その作曲時期によって作風が大きく異なる。初期のロマンティックな作風に比べ、聴覚に異常が現れた晩年の作品は、甘さや華やかさとは無縁の、構造上の響きを追求した音楽へと変貌する。

「私の年齢では、この作品に取り組むにはまだ早いかもしれないと思うところもあります。それで今はまず、6月のリサイタルでフォーレ初期の作品であるノクターンの第1番と第4番を取り上げることにしました。そこからゆっくり時間をかけて後期の作品に近づいていきたいと思っています」

インスピレーションの源は日常のすべてに

上記の演奏活動に加えて、さまざまなオーケストラとの共演もある。活動内容が幅広いので練習時間の確保も大変なのではないかと想像するが、そこはマイペースにやりくりしているようだ。

「あまり練習時間を長くとるほうではないのですが、1日の中でいつ弾きたくなるかがわからないので、できるだけ予定を入れないようにはしていますね。あとは、頭の中で作品の明確なイメージを持ってから練習に取り掛かることが大事だと思っています。そのインスピレーションは、どんなところで沸いてくるかわかりません。日常生活すべての場面に引き出しがあります」

萩原さんは現在パリに居を構え、学生として籍を置いているザルツブルクモーツァルテウムには時折通う形で勉強を続けている。同時に演奏活動のため日本に滞在することも多く、そのときにはできるだけ「静かな場所を探して過ごしている」のだという。

「東京ではそういう場所を見つけるのが難しいですが、森や庭園など、車や街の騒音が聞こえない空間が好きですね」

いつも自然に、自分らしく音楽と向き合っている萩原さん。「手帳を持っていないので、1年を振り返ったりこれからの計画を立てたりすることは苦手。とにかく今は、1日1日を楽しく過ごしている」と笑うが、その頭の中には、実り多い活動の思い出、取り組みたい作品への想いがあふれているようだ。今シーズンも意欲的な活動で、私たちに豊かな音楽を届けてくれることだろう。