Special Report レポート

「室内楽三昧 ~ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン初出演~」

Reported by Haruka Kousaka

フランス北西部の港町ナントで生まれた「ラ・フォル・ジュルネ」。名称は “熱狂の日”の意味で、数日間にわたり、朝から晩まで複数の会場でたくさんのコンサートが行われるクラシックの音楽祭だ。東京では毎年ゴールデンウィークに行われ、9回目の開催を迎えた。今年のテーマは、「パリ、至福の時」。長らくパリに留学していた萩原さんも、得意とするフランスもので、初めてこの音楽祭に参加した。

フランス生まれのラ・フォル・ジュルネ

5月の気持ちの良い気候に誘われてたくさんの人が会場を訪れ、東京国際フォーラムは大いに賑わっていた。ラ・フォル・ジュルネは、クラシック好きはもちろん、普段あまりコンサートに足を運ぶことのない方にも気軽に本物の演奏を楽しんでほしいという想いから生まれた音楽祭で、場内には、屋外ステージや屋台村など、楽しい仕掛けがいっぱいだ。独特の高揚した雰囲気に包まれている。

演奏家のほうも、1日に異なる演目を何本かこなすという、普段の演奏活動とは異なる状況に置かれる。体力的にはハードだが、聴衆の反応を間近に感じられてとても楽しそうだ。

萩原さんも3日間にわたる音楽祭のうち、5月3日、5月4日の2日間で、プログラムの異なる3つの公演に登場した。3公演すべてが室内楽プログラム。彼女は今、室内楽に夢中なのだ。

名演奏家たちとの共演

3日、まず初めに萩原さんが登場したのは、ベテランヴァイオリニスト、竹澤恭子さんとのデュオによるリサイタル。

「最初に竹澤さんと共演できると聞いたときはすごく嬉しくて、本当に私でいいのかなと思ってしまいました。一緒に演奏できるようアレンジしてくださったみなさんに感謝しています」

歯切れの良いサン=サーンスの『ハバネラ』に始まる。続く『死の舞踏』では、竹澤さんの情熱的なヴァイオリンを引き立たせながらも、萩原さんのピアノが、圧倒的な存在感で音楽に豊かなふくらみを与える。そして、フランクの名作、ヴァイオリンソナタへ。ドラマティックに泣き、歌うヴァイオリンの隣で、萩原さんは深く濃厚な音を響かせる。

「全楽章を通して、時の流れ、日々の流れ、人生におけるさまざまなことを表しているようだと感じる作品です。大好きな曲ですが、人によって解釈の違いが現れやすい作品ですし、竹澤さんに私の弾くものを受け入れていただけていたらいいのですが……」

その想いは、竹澤さんはもとより会場全体に伝わり、受け入れられたようだ。演奏が終わると、客席からは多くのブラボーの声と割れんばかりの拍手が巻き起こった。

数時間後には、10名の奏者による室内楽編成版、サン=サーンスの『動物の謝肉祭』のステージに登場した。竹澤さんに加え、フルートの工藤重典さん、アルゲリッチの実娘でもあるリダ・チェンさんなど豪華メンバーが顔を揃える。『動物の謝肉祭』は、『象』、『亀』、『水族館』や『白鳥』などの標題が見事に音楽で描写される、美しくもユーモラスな作品。わざと下手に弾いて練習中のピアニストを表現する『ピアニスト』などは、なかなか皮肉が効いている。萩原さんは、「演奏するのは初めてだったので、とても楽しかったです。『ピアニスト』では、下手に弾くことを、もうちょっと “上手に”弾けばよかったかなと思って(笑)」と、楽しそうに話してくれた。

室内楽を究めてゆく

続く4日には、「ドビュッシーのグラナダ・シンドローム」と題された公演で、ピアニストの青柳いづみこさんと共演した。萩原さんは、後半の2台ピアノによる演奏で登場。ラヴェルの『ハバネラ』に続き、その作品からの強い影響が認められ、生前には発表されることのなかったドビュッシーの『リンダラハ』、またゴヤの版画集に縁のある『白と黒で』といった、演奏機会の非常に少ない作品を演奏した。

ドビュッシー研究や文筆活動でも知られる青柳さんとの共演は、萩原さんにとって新たな発見をもたらすものだったよう。

「青柳先生も今日のトークで“フランス人は明晰さを大切にする”とおっしゃっていましたが、私も最近すごくそれを感じていました。ドビュッシーも、楽譜にとても細かく指示が入っていますしね。青柳先生から作曲家自身の逸話や解釈についてのお話を聞きながらリハーサルできたことは、本当に勉強になり、とても幸せなひと時でした」

こうして連日、異なる奏者と共演しているところを聴くと、つくづく彼女がこうした合わせものの演奏に長け、腕を磨き続けていることを実感する。ピアノにのめり込むような演奏姿は変わらないが、響く音色は昨日とはまた一味違って、青柳さんのピアノにぴたりと寄り添う。ミステリアスな音から溌剌とした音まで、多彩な音色を響かせた。

次は地球の反対側へ!?

パリ国立音楽院、室内楽課程を卒業し、ヴァイオリンとの室内楽はエリック・ル・サージュに、チェロとの室内楽はイタマー ル・ゴランに師事していたという萩原さん。昨年秋からは、ザルツブルグ・モーツアルテウムで学び始めた。演奏活動で多忙なこともあり、ザルツブルクで過ごす時間はまだそれほど長くないが、大都会パリとはまた一味違ったのんびりした町の雰囲気も楽しんでいるよう。そして実は今、ベネズエラでの演奏旅行の計画がある。現地オーケストラとの演奏曲目も決まって、着々と準備が進んでいるところだ。

「先日オーケストラの方とお会いしたのですが、彼らの目が輝いていて、音楽への熱意を感じました。とても素敵な出会いになりそうで、今からとても楽しみです」

そう言って萩原さんもまた、期待に満ちた瞳を輝かせた。