Special Report レポート

「想いを信じ、時間をかけて音楽を磨いてゆく」萩原麻未さん

Reported by Haruka Kousaka

現在パリに留学中の萩原麻未さん。今年の夏も故郷広島で、平和祈念によせるコンサートに出演しました。コンサートの模様と、最近の萩原さんの音楽活動についてご紹介します。

広島から世界に羽ばたいた

萩原麻未さんは、パリへ留学するまでの18年間、広島で育ち、ピアノを学んだ。日本を離れて海外で暮らしたことで、もともと好きだった広島の良さを改めて感じるようになったという。そんな彼女が、今年の夏も広島平和祈念日に寄せるコンサートで、ふるさとの人々に音楽を届けた。出演したのは、「ピース・アーチ・ひろしま」プロジェクトの「平和発信コンサート」(8月1日安芸太田町、8月4日神石高原町)と、「広島文化賞新人賞受賞者成果発表コンサート」(8月3日広島市)の3公演。やはり、この時期に広島で演奏をするのは特別なことだそうだ。

「フランスに留学してから、出身を聞かれた時に「広島です」と答えることへの重みをより感じるようになりました。留学先の友人たちから、67年前の広島と長崎への原爆投下について話を聞かれることもあります。広島で生まれ育ち、広島で戦時中を過ごした祖父母を持つ私から直接話を聞くことで、彼らにとって歴史の授業で習った出来事の印象がより身近に感じるようです」

音楽という世界共通言語をもって広島から羽ばたいた萩原さんは、これからも文化の懸け橋として、美しいピアノで世界をつないでくれることだろう。

音楽で語りかけ、応える。室内楽の魅力

萩原さんは、名門パリ国立高等音楽院のピアノ科で学んだのち、同室内楽科に進んで研鑽を積んだ。今、室内楽への興味がとくに高まっているそうで、今回の演奏会でも、ソロ演奏に加え、現在パリで共に学ぶチェリスト、カーリン・バーテルスさんとのデュオ演奏を披露した。

「自分以外の誰かと一緒に息をするという感覚、そして、音楽で語りかけ、それに応えが返ってくるという、一人で演奏していては味わえない感覚が、とても楽しくて。もともと室内楽は好きだったのですが、この1年ほどとくにそのおもしろさを感じるようになりました」

バーテルスさんとは音楽的な感性が合い、公私ともに仲が良いそうで、大変息の合った演奏を聴かせてくれた。ピアノは、しっかりと主張のある音でありながら、チェロにピタリと寄り添う。二つの楽器の音が絡み合うような一体感が、実に心地よい。エルガーの『愛の挨拶』やR.シュトラウスのチェロソナタに加え、「日本の歌を届けたい」というバーテルスさんの希望もあり、『浜辺の歌』でアンコールに応えた。

力強く筋の通った美しい演奏と、そこから素敵なギャップをも感じさせる、ほんわかとした二人のトーク。客席中が萩原さんとバーテルスさんのとりこになる、あたたかな空気に包まれる演奏会となった。

常に音楽の高みを目指す

話題となった日本人初のジュネーヴ国際ピアノコンクール優勝から、もうすぐ2年が経とうとしている。“演奏家にとってコンクール優勝はスタート地点”とはよく言われることで、萩原さんも優勝をあくまで一つのきっかけとして、これによって得たたくさんの演奏機会を糧にピアニストとして進化し続けている。

出光音楽賞、新日鉄音楽賞やホテルオークラ音楽賞など、数々の新人向けの賞を受賞するごとに彼女が口にする言葉は、「これからもますます精進してゆきたい」という、現状に慢心しない、向上心あふれた言葉だ。

「ジュネーヴコンクールの直後は、嬉しさよりも責任感を強く感じていました。1位をいただいて本当に光栄な気持ちと、これから学ばなければいけないことの多さを、コンクールという経験を通してひしひしと感じていました。実は本選のピアノ協奏曲を演奏した後、思った通りには弾けなかったのでとても悔しかったんです。まだまだ、あの時やらなくてはいけないと思ったことは全然できていません。少しづつでも前進するために、自分の想いを信じ、時間をかけて経験を積んでいけたらと思っています」

ピアノを弾いていてよかったとつくづく思う瞬間はどんなときかと尋ねると、彼女はこう答えた。

「愛情を持っている作品とピアノを通して触れ合えているときです。それを聴いて下さる方と、作品の素晴らしさを共有できたらもっと素敵なことです。そし て、音楽を通してさまざまな方との出会いがあったり、新しい土地に行けたり、今まで知らなかった世界に出会えたときにも、喜びを感じます」

常に音楽の高みを目指し、自らを鼓舞して、音楽に向きあう。ふんわりと優しい物腰の奥に、演奏家としての意志の強さを持つ萩原さん。今後の飛躍にますます期待が高まる。

萩原麻未さんの素顔に迫る!

──パリの生活はいかがですか?

散歩をしていて、街並みがすべてきれいなところが好きです。自転車に乗るのも好きで、よく、レンタル自転車で街を走っています。すばらしいコンサートもたくさんあります。フランス特有のちょっとルーズなところも好きです。

──料理番組を観るのが好きだそうですね。

はい……料理はしますが、得意というわけではなくて、“料理番組を観るのが”好きなんです。世界の色々な国の料理番組のYoutubeとか、好きでよく観ます。あと、日本の新聞のチラシなどに入っている家の間取りを見るのも好きでした。自分が住むならこの部屋がいいなと妄想するのが楽しい(笑)。

──今後の計画は?

しばらくは、引き続きフランスで勉強をしながら暮らす予定ですが、ドイツ語圏の国なども機会があれば住んでみたいです。将来のことは真っ白でいたいほうで、あまり決めていません。最近は手帳も持っていないんです。手帳がないと毎日好きなように過ごせるような気がするんでしょうね……錯覚ですけれど(笑)、それが心地よくて。